開発の道のり

色弱を模擬するフィルタをつくるのは不可能?

色覚の仕組みを知っている人ほど「色弱を模擬するフィルタは不可能」と考えるでしょう。確かに、単純に色弱を模擬しようとして網膜にある赤(L)あるいは緑(M)センサの出力だけをカットすることは理論的に不可能です。しかし、特定の配色に対する「色の見分けにくさ」を模擬することは極めて高い精度で実現可能である、という豊橋技術科学大の中内茂樹教授の発想の転換によって、このフィルタは生まれました。

産学連携で開発しました

中内教授の着想がきっかけとなり、経済産業省の産学連携プロジェクト(地域新生コンソーシアム)で色弱模擬フィルタを開発しました。豊橋技術科学大学中内茂樹研究室がフィルタ分光透過特性を設計し、伊藤光学工業株式会社(弊社)が真空蒸着薄膜により光学フィルタとして実現し、高知工科大学篠森研究室が心理物理学的手法により性能計測・評価を行いました。
※平成17年度中小企業地域新生コンソーシアム研究開発事業「光学薄膜技術と色覚理論の融合による機能性分光フィルタの開発(17C4020)」管理法人:(株)サイエンス・クリエイト  開発機関:伊藤光学工業(株)、豊橋技術科学大学、高知工科大学

学会での反響は

国内外の学会で発表しました。日本ではカラーフォーラムJAPAN2006、海外ではロシアで行われたECVP2006。研究者たちの最初の反応はまず、「色弱を模擬するフィルタなんて出来っこない」と半信半疑です。「ほんとにちゃんと出来てるの?」と疑う人もいます。しかし実際にフィルタをかけて周囲をきょろきょろ見回すと、皆さんの反応が変わります。口から出る言葉は「うーむ、よく出来ている」。そして次に「しかしどうやって?出来っこない。無理なはずだ」。発想の転換の話をすると「それは考え付かなかった」。
色覚研究の大家であるケンブリッジ大学のJ.D.Mollon教授もこのフィルタには驚かれたようで、フィルタ設計者の中内教授のもとに「おめでとう!」とお祝いのEメールが届いたほどでした。
左:篠森教授、モロン教授、中内教授。右:バリアントール試作品をかけるモロン教授。いずれも国際会議にて。

視覚科学技術シンポジウム

このフィルタの開発期間中、2度のシンポジウムを行いました。第一回(2006年8月)は高知工科大学の篠森敬三教授から、第二回(2007年3月)は豊橋技術科学大の中内教授から、色弱模擬フィルタの紹介と報告を行いました。シンポジウムには、アメリカやフィンランドも含めて国内外から180名を超える参加者が集まり、交流の部では各種ユニバーサルデザインツールの展示を行い、大盛況のうちに幕を閉じました。

今後のうごき

経済産業省のプロジェクトは2007年3月で終了しますが、今後も形を変えながら研究・開発を続けていく予定です。今後もご注目ください。

2008年4月、視覚科学技術コンソーシアムが発足しました。視覚科学技術コンソーシアムのページへ

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